第1章は、トライアスリートが持つべきマインドセット(心構え・物の見方)の解説でした。具体的には、スイム・バイク・ランの3種目の練習に加えて、筋力トレーニングや栄養摂取、回復についてもトレーニングと同等の優先度で取り組む必要性があること。トレーニングの合計時間や量を達成基準にするのではなく、仕事や家庭のことを考慮した上での現実的なトレーニング方法を考える必要があること等、この本の基礎となる考え方についての解説でした。
第2章では、トレーニングの負荷だけではなく、仕事や生活面の負荷・ストレスも考慮して、トータルでの負荷・ストレスをマネジメントする必要性とその方法についての解説が中心です。ただし、仕事や生活面の負荷・ストレスを計測する方法までは記載がありません。トレーニングの負荷だけであればTSSで管理することができると思いますが(私はしてませんが)、仕事や生活面の状況を把握するとなると工夫が必要でしょう。著者のMatt Dixonのコーチングを受けた選手で、この本でも紹介されている強豪エイジグルーパーのSami Inkinen選手は、毎朝、起床時の気分等を数値化して記録していたとの記事があったので、トレーニング以外も含めた負荷・ストレス状態を把握する方法として参考になると思います。私もそれを真似して毎朝、心拍数や起床時の気分、体重等を記録していますが、一日の始まりに微妙な体調の変化を把握し、その日の計画を微修正する上で役立っています。
また、この章では栄養摂取や補給の必要性についても詳しく書かれています。私も、食事を自分で作るようになり、練習後は必ず糖質、タンパク質、脂質をすぐに摂取して、水分補給にも気をつけるようになりました。現在の練習時間は、1年前にKonaの出場権獲得を目指していた頃とほぼ同じで、練習強度は現在の方が圧倒的に高いですが、疲労感や練習に対する倦怠感のようなものは殆ど感じていません。それだけが要因ではないと思いますが、適切な栄養摂取や補給で回復することの重要性を実感しています。
前置きが長くなりましたが、以下が第2章の主なポイントです。
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2.Setting the Lens(トレーニングと生活のバランスを適切に認識する)
- トライアスリート(主にエイジグルーパー)は、日々の仕事や生活の予定、急な変更を考慮に入れながら、効果的なトレーニング方法について考えなければならない。そのために、毎日、やるべきこととその優先順位を確認し、そこにトレーニングをどう上手く当てはめるかを考える必要がある。そうしないといつまでも進歩しないだけでなく、トレーニングと仕事と家庭生活のバランスを失い、苦しむことになる。
●Playing The Game of Stress(ストレスへの最適な適応方法を探る)
- 身体はあらゆる種類のストレス(負荷)に対して適応するものであり、それはポジティブな適応とネガティブな適応のどちらにもなりうる。最高のパフォーマンスは、一貫性のある着実なトレーニングから生まれるのであって、過剰にハードなトレーニングからは生まれない。ストレス(負荷)への適応を考える上で注意すべきは2つ。
- 1)日々の生活におけるストレスにも目を向けること。トレーニング負荷だけ注目して、生活のストレスを考慮しないようでは持続性を欠く。
- 2)生理学上の原理原則を守ること。身体の限界を大きく超えてトレーニングした場合、トレーニングの一貫性や質を長期間に渡って損なう可能性がある。例えば、朝3時に起きて練習して、その後に仕事し、夜11時になるまで寝ない、というような生活は過剰なストレスを蓄積し、病気やケガ、慢性疲労につながる。
Training Stress(トレーニングのストレス)
- トライアスリートが対処すべき一つ目のストレス(負荷)はトレーニングによるもの。それは「頻度」「時間・量」「強度」で測ることができ、スイム・バイク・ラン・筋トレが対象。
- 気をつけるべき点は、プロと同じように考えないということ。プロのトライアスリートは、パフォーマンスの向上が最優先課題であり、そのためにトレーニング頻度や時間、負荷を柔軟に調整できるし、回復のために十分な休息時間をとるができる。しかし、ほとんどのアマチュア選手にとってそれは無理。それにもかかわらず、ほとんどのアマチュア選手は、トレーニング負荷を理解しがたいレベルで組み合わせたり、仕事や家庭などのトレーニング以外の要素を無視してしまう。
Life Stress(生活上のストレス)
- トライアスリートが対処すべきもう一つのストレス(負荷)は、仕事や家庭などの日々の生活におけるストレス。例えば、仕事の締切や同僚との仕事、公の場でのプレゼンなど。それらに加えて、将来への不安や、家族やパートナーとの関係などもそれに該当する。このようなストレスはホルモンのレベルで何らか身体に作用するが、コントロールすることは難しく、また、ネガティブな適応につながる傾向がある。その一方で、トレーニングによるストレスはコントロール可能。そのためトレーニングはストレス(負荷)全体を調整するための重要な手段にもなるので、賢く使うべき。
●A Tool Kit For Managing Stress(ストレスを管理するための道具)
- 一貫性のある着実なトレーニングを行うには、現実的で、多くの要素を考慮した方法が必要。その中には、睡眠や栄養摂取、(練習後の)栄養補給なども含まれる。それらを適切に取り入れることで、生活上のストレスからくる負荷を埋め合わせできるし、トレーニングのストレス(負荷)から得られる効果を高めることができる。
- 逆にトレーニング直後に栄養補給しなかったり、睡眠を犠牲にしたり、いい加減な食事をしているようであれば、それがネガティブなストレス要因になる。
- このように、自分のパフォーマンスを制限する要素がどこから生じているのかについて、より意識的になる必要がある。
- トレーニングを最適化するためには、何が自分を強く、速くするのかだけではなく、何が自分を遅く、弱くするのかも把握する必要がある。
Adapt Training to Your Stressors(ストレス要因に対応したトレーニング)
- 柔軟性に欠ける練習計画はコントロールするのが難しい。練習計画は予定を狂わせるような外的要因を考慮して設計する必要がある。また、(トレーニング以外の)生活や仕事上のストレス要因を考慮に入れなかったり、身体の疲労具合やを把握せずに、単純に計画通りにトレーニングしようとすると大きな失敗につながる。
- 柔軟な練習計画にするためには、毎週の始めに(毎日の始めにも)、その週のトレーニングの目的を考え、身体の状態に基づいてトレーニング負荷の量を調整すべき。その際に、トレーニング以外の生活面のことやストレス要因も考慮する。
- トレーニングによる負荷(ストレス)以外に、仕事や生活上のストレスを強く受けている場合、身体にかかるストレスの全体量はとても大きくなり、トレーニング負荷に対する適応は、例えば休暇中のようにストレスが少ない場合と同じようにはいかないことを認識しておくべき。
Execute on Intent(意図に則って練習する)
- トレーニングするときに、そのメニューの意図と違ったことをするというのは、よくあるミス。例えば、低負荷で設計されたトレーニングを、高強度でやりすぎるというケース。(トライアスリートは過剰にやりすぎる傾向があり、その逆の問題はほとんどない。)
- 本来、低負荷で行うべきトレーニングを高強度で行うと、有酸素運動能力の向上やフォームの改善、回復促進などの本来の目的を果たせなくなる。また、その後に高強度で行うべき重要なトレーニングを本来の強度で行うことができなくなる。
- 明確な意図がない練習をしていると高負荷と低負荷の練習の差がなくなり、最終的にはMonotony状態(練習内容や強度に変化がなく単調で最終的には身体が負荷に対して順応するのが難しくなる状態)に陥る。
- 低負荷の練習で高い負荷をかけてしまうと、本来の目的通りに回復できなくなる。その結果、筋肉や腱、靭帯は怪我のリスクが高まり、ホルモンレベルでの回復もできなくなる。
- 練習プログラムの強度が過剰に高くなっている場合も同様の影響があり、高強度練習の間での回復が不十分になり、Monotony状態に陥ったり、ケガや身体的な疲弊のリスクが高まる。トレーニング量や時間が過剰な場合も同様のことが生じる。
- 適切な休息をしないと、単に回復できないだけではなく、感情的な面でもストレスが増し、活動レベルの低下や優先順位付けする能力を弱めてしまう。
Safeguard Sleep and Recovery(睡眠と回復を護る)
- 練習や仕事で負荷が高まり、適切なコントロールができなくなると、多くの場合、何かを削ろうとする。最初に削られがちなのが睡眠。不十分な睡眠を正当化しがちだが、その影響は大きく、睡眠不足は神経機能や筋肉の動きの低下をもたらし、エコノミー(効率的・効果的な動き)に影響する。
- 慢性的な睡眠不足は、アルコール摂取と同じ影響を与える。その違いは、アルコールの場合は何が起きているか理解できるのに対して、睡眠不足の場合はその影響を認識できないこと。
- また、睡眠不足は適切な栄養やカロリー摂取に対する意欲も失わせてしまう。
- ストレス過剰なアスリートは、週の合計練習時間を、16時間から12時間程度まで減らして、質の良い睡眠をとること。
Prioritize Nutrition and Fueling (栄養摂取と補給の優先度を高める)
- 栄養摂取については細心の注意を払っていても間違っている可能性がある。
- まずは健康な身体の基盤づくりを行う必要がある。過剰に加工されたものではなく、一日を通して質のよい食事をとること。細胞の機能を高めるために、タンパク質、ビタミン、ミネラル、そして脂質を適切に供給すること。
- 練習中に栄養補給することは重要だが、練習後の補給はもっと大切。タンパク質、脂質、炭水化物を含んだ食事を、練習の後にすぐに摂るべき。
- トレーニング後の1時間か2時間以内に栄養補給されなかった場合、「運動飢餓 athletic starvation」という状態になる。運動すると、コルチゾール(ストレスを受けることで発散されるホルモン)のレベルが上昇し、パフォーマンスを高めるが、練習をやめた時、速やかにこの値を元に戻さなければならない。練習後に適切に栄養補給しないと、この値が適切に下がらず、その結果、ストレスホルモンが必要より長く、高い状態でとどまる。(※コルチゾースの量が多すぎると、血圧や血糖レベルを高めて、免疫機能の低下を招く。wikipediaより)
- タンパク質の再合成や、筋肉・肝臓でのグリコーゲンの再貯蔵は、練習後に適切に栄養補給しないと損なわれ、回復のプロセスが長引いてしまう。
- ほとんどのアスリートは、日々の生活において適切な水分補給を行うが、練習後の水分補給で失敗している。練習後、可能な限り早く完全に水分補給された状態に戻すべき。水分補給は、細胞機能や免疫機能を健全に保つし、筋肉を再合成するための基礎になる。
- 最適なパフォーマンスを得るには、コントロール可能なレベルの負荷やストレスを、単に練習だけ切り取って管理するのではなく、仕事も含めた生活全体の中で統合して管理する必要がある。練習にフォーカスし過ぎて、仕事や生活面でのストレスを考慮しないでいるようではダメ。
- このような負荷やストレスを積極的に管理することで、より健康的でバランスのとれた状態になる。さらに、その結果、エネルギーが高まった状態になると、トレーニングの負荷に対してより適応しやすくなる。
- 自分のパフォーマンスを下げるストレス要因を知っておくと、それに対処しやすくなるし、大きく落ち込むことを避けることができる。また、それを知っていると、パフォーマンス向上につながる重要なトレーニングに注意を向けることができる。
●Mastering Positive Adaptation(ポジティブな適応方法を習得する)
- トレーニングが成功するか否かは、ポジティブな適応を生み出すような負荷レベルを把握することにかかっている。
- 重要なのは「経済性の原則」で、不適切なトレーニングを数多く実施するより、適切なトレーニングをより少ない時間で実施するほうが効果的。これを実現するには、柔軟な計画が必要で、頻度、強度、時間についてより現実に即した調整を行うべき。
- 練習の着実さや一貫性(Consistency)はとても重要だが、予め決めた練習メニューにこだわり過ぎないこと。日々の忙しい仕事や生活を考慮にいれた上で、無理のない範囲でトレーニングの一貫性を保つことが、長期にわたるパフォーマンスの改善と向上を可能にする。
Know Your Tipping Point(臨界点を知る)
- 自分の能力の臨界点(Tipping point)を下回るレベルでトレーニングすべき。そうすることで柔軟に練習を継続することができる。
- 精神的にストレスが高まった日や、出張などで身体への負荷が高まった日というのは、ネガティブな適応を引き起こすような、閾値を超えたレベルに自分を追い込んでしまう可能性がある。そういう時に自分の能力の80%程度に抑えることができれば、適切にトレーニングすることができる。
- このように自分の能力の最大値まで少し余裕をもたせることは「能力の緩衝材(Capacity buffer)」といって練習の質を高める。そして、トレーニング負荷に対するポジティブな適応を得られるだけではなく、マインドフルネス状態や瞑想に近い状態を得られる。
●Planning And Integration(計画と統合)
- 日々の仕事や生活状況を把握することは、トレーニングを計画し、それを仕事や生活と統合していく上では欠かせない。まず最初に確保可能なトレーニング時間について正直に見積もる必要がある。そのために以下の3つのステップが役立つ。
Seeing Your Life Landscape(生活全体を見渡す)
- まず最初は、典型的な週を例にとって、自分の生活全体を把握すること。仕事や通勤時間、家族との時間、社交活動。食事の時間や食習慣、休息や睡眠習慣も考慮すること。事実と認識が乖離しないように、定量的に記録するとよい。些細なことであっても(例えば、いつアルコールを飲んだか、どれくらいの頻度でデザートを食べたか、いつ適切な食事よりもスナックを食べたか等)記録すると、より正しく現実を認識できる。
Allowing for Contingencies(不測の事態を考慮する)
- 典型的な週を例にとって生活全体を把握したら、次は不測の事態を把握すること。例えば、出張やプライベートでの旅行。または数日空ける必要がある子供のスポーツ大会等。さらには、病気や定期的な仕事のスケジュールの変更、居住地によるが練習に不利な天候条件も考慮にいれるべき。
Learning from Your Past(過去から学ぶ)
- 3つ目のステップでは、これまでトライアスロンの目標達成の過程で遭遇した障害を振り返る。基礎づくりのトレーニング期間や、特定の練習、またはレース中など、それぞれのタイミングについて振り返ると、過剰な練習プログラムであったり、逆に目標達成には届かないような練習内容などが見えてくる。
Integrating Training Time(トレーニング時間を統合する)
- 例えば1週間のスケジュールを見渡して、「常にトレーニングできる時間」「概ねトレーニングできる時間」「トレーニングできるかもしれない時間」を書き出しておくと、優先順位付けしやすい予定表を作ることができる。
- トレーニング時間を週次計画に入れる前に、まず最初にいつ寝るかを決めること。睡眠の質は仕事、生活、トレーニングの全てに影響を与える。
- その次に、トレーニング可能な時間について少なく見積もること。不足の事態が生じてトレーニング時間が削られると、多くの人は失敗したという感覚になる。計画を立てた後にトレーニング時間を増やすほうが簡単。
- 週の合計練習時間が必ずしもパフォーマンス向上に役立たないということを忘れないように。効果的なトレーニングとその時間を最大化することの方が重要。
- よく「何時間のトレーニング時間が必要か?」という質問を受けるが、その質問は意味がない。今まで見てきたような方法で、仕事や生活ともバランスをとりながら、確保可能な練習時間を把握することが先。おそらく、それは自分が当初想定していた時間よりも少ないはず。でも、重要なことは、より多くのトレーニング時間を詰め込むことではないということを忘れないように。